明け方の眠り姫
「……夏希さん?」

 こんなときに、私のあとを追う人など誰もいないと思って油断していた。

「え……どうしてここに?」

 涙で濡れたままの顔を上げると、私の前に要くんが立っていた。いつも通りのラフなスタイルに、今日は濃紺のエプロンを着けている。さすがに結婚式のゲストというわけではなさそうだ。


「なんでって、仕事で。うち、この式場にシャンパン卸してるんです」

 要くんは私の顔をしばらく見つめると、続けてガーデンで開かれている披露宴に目をやった。

「ふーん、そういうこと?」

「……なにが」

 要くんはそれには答えず、腰を屈めてはまた私の顔を覗き込んだ。こんな近距離で、若い子に泣き腫らした顔を見られるなんて耐えられない。私は彼から思いっきり顔を背けた。


「まったく、なにやってるんですか夏希さん」

 いい年をして、一人で泣いてるところなんて絶対見られたくないのに、要くんは私がどんなに顔を逸らしてもついてくる。

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