明け方の眠り姫
「……あなたね、毎日毎日どんだけ暇なの?」

 要君はテーブルに頬杖をつき、私の顔を見つめて笑顔を浮かべている。昨日も一昨日も、その前からずっと、彼はこの時間になるとやって来て、勝手に私の向かいの席に座っている。

「暇じゃないよ。この後も仕事だし」

「あら奇遇、私もこの後仕事なの。悪いけど、忙しいからこれ食べたらすぐに出るわよ、私」

「あれ、画廊のオープンの時間までまだあるのに。夏希さん今忙しいの? ひょっとしてまた誰かの個展やるの? それなら僕、準備手伝うよ!」

 要くんとの出会いは、夏にうちの画廊で開催した個展だった。彼は、絵の搬入や会場設営のために雇った数人のアルバイトの中の一人だった。


「ありがとう。でも今は……いらないわ」

「ええー、僕また夏希さんと一緒に仕事したいのに」

 まるで、親に叱られて拗ねた子どものように眉間に眉根を寄せる要くんに、苛立ちを覚えた。

「あのね、そんなにしょっちゅう個展開けたら私も苦労しないわよ! それでなくても仕事はいくらでもあるんだから。私には要くんのお守りしてる余裕なんてないの」

「夏希さん、つれないなあ。でもそこもいいんだけど」


 私がこんなふうに冷たくあしらっても、要くんはちっともダメージを受けることなくにこにこしている。

 でも、若い子の冗談を真に受けるほど、私も馬鹿じゃない。それにまだ当分は
、恋愛に時間もパワーも割く気になれそうもない。


 結局今日も、要くんは私がモーニングを食べる間ずっとその席に座っていた。

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