明け方の眠り姫
 私はずっと、和史がより良い環境で絵が描けるよう尽力してきた。彼も私のことをパートナーとして認めてくれていたと思う。私たちはプライベートでも、信頼し合い、何でも話し合えるいい友人でもあった。


 彼が人生の底にいるときも、私は決して見放さなかった。

 和史が、婚約者を亡くして長いスランプに陥ったときも、評価が落ちて思うように絵が売れなくなったときも、ずっと側にいて彼を支えてきたのは私だ。

 それなのに、どうして今日、あの女性が彼の隣に立っているのだろう。……どうして私は、和史に選ばれなかったのだろう。

 そして、じりじりと焼け付くような嫉妬のあとに私を襲ったのは、あっという間に和史の心を攫ってしまった涼香さんへの敗北感と、言いようのない無力感だった。


 いつの間にか、私の顔から祝福の笑みは消え、視界が歪んでいくのがわかった。

 私が流そうとしている涙は、今この場には相応しくない。そう思った私は、静かに席を立ち、そっとチャペルをあとにした。

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