本日、結婚いたしましたが、偽装です。


佐藤が、泣いている……。


俺は、それ認識するのに、少し時間がかかった。


ひどく驚き、そして戸惑った。


何故泣いているのか分からず、どう声をかけていいのか分からなかった。


一体何が、佐藤を泣かせているのか?


先程まで、普通に仕事をしていたのに。


俺は、動揺しながら、しばらくぼうぜんと佐藤を見つめた。



「っ、あ、すみません。そのっ、これは、違くて…」



佐藤は、涙声でそう言って勢いよく俺から顔を逸らすと、深く俯いた。



鼻をすする音と、吃逆のような嗚咽、見るからに細い肩を微かに震わせて、ぼたぼたと涙を流す佐藤を見て、どこかに飛んでいた意識を取り戻した俺は、すかさず佐藤の隣のデスクに座った。


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