本日、結婚いたしましたが、偽装です。
それにしても、まさか佐藤が俺の誘いを受けてくれるとは思わなかった。
胸が、純粋な嬉しさで高鳴っていく。
……くっ、佐藤と食事に行けるなんて、なんか夢みたいだな……。
頬を緩ませてジーンと喜びを感じていると、私服に着替えた佐藤が更衣室から出てくる。
おっと、いけねえ。
俺はすかさず無表情になると、身体を壁から起こした。
佐藤と並んで歩いて、エレベーターに向かう。
もう少しで腕と腕が触れ合う距離で、ドキドキと鼓動が高鳴る。
……ちくしょう、普段の制服姿もだが、レアな私服姿も可愛いなんて、どういうことだよ。
ちらちらと佐藤を盗み見ながらそう思っていると、佐藤が暗い表情をしていることに気付く。
俺より背が低い佐藤の顔は、角度的によく見えた。
「大丈夫か、佐藤」
深く心配になった俺は、不意にそう訊いた。
「…もう、大丈夫…です。さっきは迷惑かけてすみません」
佐藤は頭を下げると、謝る。
……迷惑かけられたなんて、これっぽっちも思ってねえのにどうして佐藤は謝るんだ。
むしろ、かけてほしいくらいのに。
泣くほど、もし辛い思いをしているのなら、教えてほしいと思っているのに。
エレベーターの前に着くと、俺はボタンを押した。
「何かあるなら、聞くぞ。俺でよければ」
思い切って言ってみたが、内心はまた先ほどのように無言で断られないかとドキドキしている。
「え…」
佐藤は小さな声で言って、顔を上げると俺を見た。
……今日はよく俺のことを瞳に写してくれるな。
口元がにやけそうになる。
いけねえ、いけねえ。
「話したくないなら、いいんだ。ただ、佐藤の上司としていつもの様子とどこか違っていたから気になっただけで、余計な世話なら、すまない」
俺に言いたくないようなことを無理に言わせる必要もないしな……。
俺がそう謝ったのと同時に、エレベーターが来て扉が開いた。
俺は、先に乗り込むと、開けるボタンを押して佐藤を待った。
だが、佐藤はその場に固まったように動こうとしなかった。
「佐藤、置いてくぞ」
そう促すと、佐藤はようやく動き出し、エレベーターに乗った。
扉が閉まり、密室状態になる。
少し離れて俺の隣にいる佐藤の気配を感じて、俺は鼓動を高鳴らせていた。
エレベーターの中は沈黙が流れていて、微かに機械音が響いているだけだった。
これからどこに食べに行こうか、今聞いた方がいいのか聞かない方がいいのか迷って、何も言わない佐藤にどう話しかけようか迷っていると、不意にある事を思い出す。
あ、そうだった。
さっき、佐藤にアレを渡しそびれてたな。