本日、結婚いたしましたが、偽装です。
くるりと身体の向きをエントランスの方に変えて佐藤に背中を見せる。
俺が歩き出すと同時に、佐藤もついてくるように俺の少し後ろで歩く。
また、頬が緩んでしまう。
あんなに車から降りてくれるかどうか、たったそれだけのことで焦りや不安を感じたことはなかった。
こんなに、自分の家に無理矢理連れて来たようなものだけど来てくれることに嬉しいと思ったことはなかった。
佐藤は、車を降りてから何も言わない俺に何も聞かずについてくる。
これから苦手な上司の家に行くというのに、何も言わなかった。
小心者の俺はそのことに、どこか安堵していた。
首だけを捻ってちらりと背後を見ると、佐藤がどこかそわそわとしてきょろきょろと辺りを見回している。
緊張と困惑していると、言葉がなくてもその雰囲気で俺に直接伝わってきた。
佐藤の緊張を感じ取ると、俺もまた緊張に駆られる。
……あっ、そういえば、部屋掃除してあったか?
一応休日に掃除していても、埃は毎日たまるもんだしなぁ……。
それから片付けは……一応してあるな。
自分で言うのもアレだが一応整理整頓はしてある方だと思うし、それに見られてマズイものも無いはずだ。
あ、俺ん家確か、コーヒーしか置いてねえぞ。
あとはミネラルウォーターのペットボトルがあるけど佐藤がそれを飲みたいとは限らないから、後で近くのコンビニに買いに行くか。
ぐるぐると考えていると、エントランスに着いた。
そしてふと部屋が最上階だと気付いて『高い場所は平気か?』と訊くと佐藤は『一応、平気です』と言ったので、安心しながらそのまま連れて行った。