本日、結婚いたしましたが、偽装です。
俺はそう訊くフリをして、ずいっと身体を佐藤に近付けた。
意識していないと、電気の光に吸い寄せられる虫の如く佐藤という光に何もかも吸い寄せられてしまいそうになる。
そう、意識も思考も……理性も何もかも。
佐藤に寄せられてしまいそうになる意識や思考の手綱を、かろうじて正常な理性で締める。
「い、いえ、なんでもありません」
佐藤は会社での普段の時と同じように、俺から勢いよく目を逸らした。
俺の気持ちがしぼむけれど、佐藤が頬を赤らめたままだということに気付くとたちまちのうちに高揚感を覚えた。
……どうして頬を赤くしているのかはっきりとは分からないが、きっと俺のせいでもあるだろう。
勝手な妄想で自意識過剰かもしれないけれどそう思うと、いつもは切なくなる気持ちが嬉しさでいっぱいになった。
……佐藤がそれだけ、俺のことを“意識”しているように思えるから。
自分の気持ちをどうにかしようとするつもりはないと思いながらも俺は、やっぱりどこかで佐藤に気持ちに気付いて欲しいと思っていた。
俺のことを、見て欲しかった。
そしてそうしてもらえるにはどうすればいいのだろかと、常に考えていた。
「ふーん、何か失くしもんでもしたのかと思ったけど、違うのか」
「違います」
佐藤は俯いたまま、一言を蚊の鳴くような声で言った。