本日、結婚いたしましたが、偽装です。


佐藤は深く眉根を寄せて、今にも泣き出しそうな表情でそう言った。


俺は、何も言えなかった。


一週間前からまともなものを食べていなくて、ここ二日間は何も食べていないなんて……。


本当に何があったんだ?


食事が喉を取らないとは、よほどな事があったんだろう。


そう俺は、強く確信した。


何があったのか訊きたいけれど、それを抑える。


辛そうな表情で黙り込む佐藤を見て、これ以上何かあったのか追求するのはまるで傷口に触るようで佐藤が更に辛い思いをすると思い踏み止まる。


それにしても、二日間飲み物だけでよく倒れずに仕事をしていたな……。


それだけ身体に無理をしていたのかと思うと、体調の方もとても気になった。


食事は生きるための資本だ。


だけど、一週間前からまともに食事を摂れないほど何かあってもしっかりとその間毎日佐藤は仕事をしていたと思うと胸が張り裂けるほど心配になった。


無理をしていたんじゃないだろうか?


こうしている今もしているんじゃないだろうか?



沈黙が、やけに長く流れた気がした。


……何かあったのかとても気になるが、とりあえず今はやるべき事をやろう。


俺はそう思い立ち、立ち上がるとキッチンに向かう。


いつか結婚するからと言ってもまだ一人暮らしには大きすぎる冷蔵庫を開けて、野菜室からネギを出す。


普段料理に使うため常にあるカツオと昆布の出汁が入った保存容器を出す。


俺の頭の中では、これから作る食事のイメージが浮かんでいた。


次は収納棚から片手鍋を出す。


「あの、課長…?」


佐藤のおずおずという声が、背後から聞こえた。


俺がキッチンで今から何をするのか、不思議に思っているんだろう。


やることは一つに決まっている。


俺は振り向くと、短く吐息をつく。


「これから飯を作るんだよ。一週間も変な食生活でしかもここ二日は何も食ってねえなんて言って、腹空かせてる部下にな」


< 87 / 132 >

この作品をシェア

pagetop