本日、結婚いたしましたが、偽装です。


ダイニングテーブルまで佐藤をわざわざ移動させるのも考えられず、それから佐藤の隣で食べたいとも思った俺は、ラグの上にソファーのクッションを置いて座った。


さりげなく、佐藤と距離を取って隣に座ると木のスプーンを持つ。


佐藤はおじやを見つめたまま、微動だにしない。


「食えよ」


俺は、ドキドキしながら佐藤が食べ始めるのを待つ。


「あ、はい。じゃあ…、いただきます」


佐藤は手を合わせるそう言って、俺とお揃いのスプーンを持った。


……やっぱり一つ一つの所作が綺麗だな。


わざわざ手を合わせて『いただきます』なんて、俺普段からしてないような気がする。


……味は大丈夫だろうか?


一応味見はしたから大丈夫だとは思うが、佐藤の口に合うだろうか?


重要なプレゼンの時以上の不安と緊張が、俺を襲う。


おじやを掬って冷ましている佐藤の姿を眺めた。


柔らかなそうな唇をすぼめて息を吹いている姿に、心を奪われる。


……うっわ、可愛い……っ。


可愛過ぎだろ、おい。


なんで熱いのを冷ましているだけなのに、こんなに可愛いく見えるんだよ。


またどこかにいこうとする理性を掴んで、暴走しようとする意識を正常に保つ。


落ち着け、平常心だ、平常心。


すると、邪な葛藤を俺の視線に気付いた佐藤が上目遣いでこちらを見る。


「な、何ですか?」


不思議そうに訊かれ、ハッとする。


……しまった、ついいつものくせで見過ぎちまった。


「いや、なんでもない。…いただきます」


俺は佐藤から一抹の物足りなさを感じながら、渋々視線を逸らすとおじやを掬い、佐藤のように冷ましてから口に運んだ。


ちらりと見ると、佐藤はまだどこか不思議そうな表情をしながらもおじやを食べた。


俺の鼓動が更に加速する。


……味は、煮込み具合は、大丈夫だろうか?


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