本日、結婚いたしましたが、偽装です。


「…では、失礼します。…また、明日…。おやすみなさい…」


佐藤は早口にそう言うと、ささっとドアを開けて外に出た。


それから少し屈んで俺に、頭を下げる。


ドアをゆっくりと閉めようとした時。


……分かっているけど、だけどまだ、このまま佐藤と別れたくない。


そう強く思った俺は、『佐藤っ』と呼んだ。


佐藤はドアを閉める手を止めて、少し怪訝な表情で俺を見た。


俺は急いで思考を動かして、常識的で模範的な言葉を見つけると短く吐息をついて口を開いた。


「なぁ、今度、また一緒に食事、行かないか?」


「えっ…?」


緊張と不安で、更に鼓動が高鳴る。


「ほんとは今日、連れて行きたかったんだけど、美味い肉料理の店があるんだよ。俺の行きつけでさ…。佐藤、肉好きって言ってたから、どうかなって…。あ、無理ならいいから…」


……断れるか?断れるのか?


俺の家に来て手料理を食べてくれたからといい気になっているのかもしれない。


佐藤が、この誘いを受けてくれるとは分からないのに。


やっぱり、断れるよな……。


緊張と不安と恐怖に挟まれながら、佐藤の返事を待つ。


「…はい。今度、是非…」


佐藤が、そう返事をした。


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