本日、結婚いたしましたが、偽装です。
……えっ?
佐藤の言葉を何度か反芻してからその意味が分かると、嬉しさで意識が宙に舞い飛んだ。
佐藤が俺に少しでも興味を持ってくれたと、嫌いかもしれなくても近づいてくれるかもしれないとそう思ってもいいのだろうか?
そう思ってしまっても、期待してしまってもいいのだろうか。
“まだ、チャンスはある”と。
「ふっ、そうか…。それは、なんというか嬉しいな…」
「えっ?」
そう呟いてから、ハッと佐藤を外で立たせていることに気付いた。
「あ、佐藤、長々と引き留めてごめん。外、寒いのに…。早く中に入って、よく身体、温めろよ」
「あ、はい、そうします…。では、」
「ああ、明日、会社でな」
俺は片手を上げた。
先ほどより軽い気持ちで、今度こそゆっくりとドアを閉める佐藤を見届ける。
佐藤は少し車から離れると、その場からしばらく経っても動き出そうとしなかった。
どうしたんだ?もしかして、見送ろうとしているのか?
……そういうところも佐藤らしいな。
俺は笑みをこぼすと、助手席側の窓を開けた。
「佐藤、見送りはいいから、早く中に入れ。それ以上いたら、風邪引くぞ。ほら、早く」
俺は佐藤に早く家の中に入れと、片手を動かした。
「えっ、でも」
「お前が中に入るのを確認するまで、ずっとここにいるぞ。それでもいいのか?」
佐藤が聞かざるを得ないような少し卑怯な言い方をした。
「それは、困ります。…では、失礼します」
佐藤は渋々というに言ってから、俺に背を向けてアパートに向かう。
俺はいつまでも佐藤の姿を見ていたくて、しばらく時々振り返る佐藤を見送った。
佐藤が二階に上がり、真ん中の部屋の前で足を止める。
佐藤は一度振り向いて、まだいる俺を確認してから部屋のドアを開けて中に入った。