甘い魔法にかけられて
「こんばんは、この先大幅冠水で通行止めです」

「え?新幹線の駅までなんですが迂回路ありますか?」

低気圧の停滞で
排水が追いつかないらしい

「残念ですが・・・山廻りの迂回路が土砂崩れでこれまた通行止めで」

説明するお巡りさんも
申し訳なさそうな顔をする

「困ったなぁ、ね、柚ちゃんどうしよう」

・・・どうしようって言われても

「・・・・・・。」

窓を閉めるとこちらを向く

「まだ降ってるし・・・復旧作業も明日になるだろうな、諦めて宿を探すか」

「え?泊まるんですか?」

「車の中で朝まで過ごす?」

「それは・・・」

お巡りさんに一番近くの宿を訊ねると
1時間走った所にあるビジネスホテルと
ついさっき通り過ぎたネオンのホテルの二択

・・・ネオンのホテルってあれだよね

そんなこと自分の口からは言えないけれど
まず選ばないだろうと踏んだのに

「近いほうにしよっか」

脳天気な笑顔で車を動かすKY

結局のところ嫌だと言えない私は

紫色のライトが点滅するアーチをくぐり抜けた所で

「これは・・・ビジネスホテルですか?」

分かりきったことを勇気を振り絞って
上ずった声を出して聞いてみたのに

「違うよ、ま、この場合はビジネスホテルって利用だけどね」

KYはこちらが思う程
深刻でもない顔でサラッと答えた
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