甘い魔法にかけられて
車庫に車を停めると
センサーでもあるのか

シャッターが降り始めた

KYに促され車から降りると
助手席側にあるドアから中に入る

ドアの内側は階段のみで
リズム良く昇るKYの後ろに続く

もう1枚ドアが開かれると
怪しい間接照明の部屋が現れた

「ど~する柚ちゃんベッド一つしかないよ」

・・・当たり前じゃないですか

・・・ツインだと逆に変でしょう

「K・・・っと矢野さん運転でお疲れでしょうからベッドを使って下さい、私はこちらのソファで寝ます」

決定とばかりにソファへ腰掛けると
正面にガラス張りの浴室が見えた

・・・なんということでしょう

・・・プライバシーの侵害以外考えられない部屋です

「喉乾いたね~」

またも続く脳天気な笑顔で
小さな冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと

【消毒済】などと封印されたコップへと注ぐ

「飲んだら落ち着くよ?」
はいと手渡され

「ありがとうございます」

・・・水で落ち着くって河童か魚か

小さなツッコミを入れながら

「頼もうか」

KYの提案で
テーブル上のメニュー表を眺める


・・・本当なら駅弁でも買ってたはず・・・残念

いかがわしいホテルなのに
ちゃんとしたメニューが並び

ペラペラめくりながら
悩んでいると

「いくつか注文してシェアしよう」

サッとメニューを取り上げると
電話であっという間に注文完了

「お酒はやめといたよ」

片目を閉じるKYに

不幸な週末を思い出し
気分が下がった


結局の所
小さなテーブルに並んだ料理を
2人で、いや・・・一方的に話す
KYの話を聞きながら黙って平らげ


「1日入らなくても死にません」

順番に入る提案のお風呂を断り
浴室側に背を向ける形でソファに沈んだ
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