強引ドクターの蜜恋処方箋
けだるい体をなんとか奮い起こして、私も病院に向かった。

雄馬さんにはきちんと伝えないといけない大事な話だったのに。

今日、病院で会えたらきちん話そう。

外科病棟に向かうと、既にユウヒがデスクに座って引き継ぎ書を読んでいた。

「おはよう」

「あ、チナツさん!おはようございます。昨日は先に帰らせてもらっちゃってすみません。大丈夫でしたか?」

「問題ないよ。あの後私もすぐ帰ったから」

・・・って、帰ってないか。

ユウヒの肩に手を置きながら私もその横に座った。

二人で引き継ぎ書を読んでいると、急にナースセンターに緊張が走る。

先輩達が慌ただしく席を立ち始めた。

「急患かな?」

私はユウヒに小さな声でつぶやいた。

「違うみたいですよ。ほら」

ユウヒがエレベーターホールを指刺した。

エレベーターがゆっくり開き、その前に先輩達が何人か並んでいた。

そして、そのエレベーターの中央から、松井教授が車いすを押されて出てきた。

え?!

看護師達は深々と教授に頭を下げて、挨拶をする。

私とユウヒも思わず立ち上がった。

「誰だろ?」

ユウヒが私にささやく。

「松井教授よ」

「え!」

ユウヒは目を丸くして自分の口に手を当てた。

松井教授は看護師達に「お疲れさま」と微笑むと、そのまままっすぐナースセンターに入ってきた。

顔色もよく、体調もすっかり落ち着いているようだった。

教授は婦長を呼ぶと何か話していた。

婦長はすぐに私達の方を向いて手招きする。

「なんだろ?」

ユウヒが心配そうに私の顔を見た。

胸がドキドキしていた。

どうしよう・・・。

松井教授は私の姿を見るなり、

「君は、確かこないだ医局に文献を届けてくれた娘だね」

と気付いてくれた。

「は、はい」

慌てて頭を下げる。

「あの時は咄嗟に私を介抱してくれてありがとう」

教授は優しく笑って頷いた。

「ところで、昨晩私を助けてくれたのは?こちらの実習生のお二人のどちらかかな?」

と言って、私とユウヒの顔を交互に見つめた。

ユウヒは教授と目が合って、ぶんぶんと首を横に振った。

「じゃ、ひょっとしてまた君なのか?」

教授は私の方を目を細めて見つめながら、ゆっくりと確認しながら言った。

私はこくんと頷いた。

心臓が飛び出しそうになるくらいに緊張していた。

婦長が松井教授の耳元で、

「実習生の南川チナツさんです」

と伝える。

あー、言われちゃった。

思わず目をぎゅっとつぶってうつむいた。

教授は、

「ミナミカワチナツ・・・」と繰り返しながら、こめかみに手を当てて何かを思い出そうとしていた。

思い出さないで。だってまだ私は・・・。

目をつむったまま祈るような気持ちで、お腹の前に組んだ自分の手を強く握り締めた。

その時だった。

「親父」

その声が背後から聞こえた。






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