昨日の夢の続きを話そう
誰でもやる、親指を立てるなんてことない仕草なんだけど、砂岡くんがやると一瞬我を忘れて見惚れるような感覚に陥るというか、傷心の私をもちょっとドギマギさせるような魅力があった。

こんなイケメンがうちの台所に立ってるなんて、今更ながら信じられない。


「あ、トマトがある」


私がそんなことを考えてるとは露知らずな砂岡くんは、開いたままの冷蔵庫の中を覗いて言った。


「これね、前田さんからたくさんいただいたの。あ、前田さんって、こないだ一緒に花時計カフェに行った作業服を着てた女の方なんだけど」
「うん、わかるよ」
「前田さん、砂岡くんのことすごくカッコいいって言ってたよ」


ドギマギしちゃった動揺からか、つい口走ってしまった私に、砂岡くんはふっと穏やかに微笑んだ。


「でも、好きな人に言ってもらわなきゃ、意味ないしね」


切なげな表情に、胸がとくんと打つ。


「使ってもいい?」
「へ?」
「トマト」
「う、うん」


砂岡くんの横顔に見入っていた私は、慌てて何度か頷いた。

砂岡くんはそれからベジブロスと、持っていたブイヨンやオリーブオイルなどを使って、とっても美味しいトマトスープを作ってくれた。
昨日使おうと思っていたベーコンや玉ねぎも入れたんだけど、玉ねぎの皮はまたベジスープを作るときに使えるので、綺麗に洗ってビニール袋に入れ、野菜室に仕舞った。

私は彼が調理する工程を後ろで見ていたんだけど、流れるような所作や、真剣な顔つきには目を見張るものがあった。
途中で洗い物があったら手伝おうと思っていたのに、そんな隙さえなかった。

すごく絵になる光景。
なにより、手がとても綺麗。
指先は長く、爪は整えられていて、そのてきぱきと手際のよい動きについ引き込まれて目で追ってしまう。
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