昨日の夢の続きを話そう
トマトの酸味が効いた、いい匂いがしてきた。


「砂岡くんって、いつもブイヨン持ち歩いてるの?」
「まさか。今日はたまたま、使う用事があったから。あ、スープが出来たよ。一緒に飲んでみよう」
「うんっ」


私はずっと戸棚の引き出しの奥に仕舞ってあった、おばあちゃんがランチョンマットとお揃いのチェックの生地で作ってくれたコースターを取り出して、居間のテーブルに並べた。

砂岡くんと向かい合って座り、ベージュのカップになみなみと浸った赤いスープに、ふーっと息を吹きかけた。


「美味しい……」


ひとくち飲み込むだけで、体に染み入る温かさ。
それまでどんなに体が冷えていたかを思い知る。

野菜のほのかな甘さは、きりきり傷んでいた心に、優しく浸透して癒す。


「なんでかわかんないけど、砂岡くんのスープを飲むと、泣けてきちゃうんだよね」


指先で目尻に滲んだ涙を擦ると、ふっと微笑んだ砂岡くんは、おもむろに立ち上がった。


「そんな香澄さんに、いいものだよ」


台所から戻ってきた砂岡くんは、紙袋からなにかを取り出す。


「そんな、ってなに。からかってるでしょ」


子どもみたいにぐすんと鼻をすすった私は顔を上げ、真正面に立ち差し出した彼の手のひらを見た。
すると。


「じゃーん」


オレンジ色の花が、手のひらの上で咲いていた。


「ナスタチウム、食べれる花だよ」
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