昨日の夢の続きを話そう
一瞬、呼吸を忘れた。


「こ、これ……」


涙で視界が潤むので、ぱちぱちと連続で瞬きする。
動かなくなった私を不思議に思ったのか、砂岡くんは首を傾げ「香澄さん?
」ゆっくりと膝を折る。


「これ、もしかして……黄色もある?」


あのときの花だ。
ポスターで見た、白い家の周りにたくさん咲いてた花。

記憶のなかでは輪郭がぼやけて、今まで探そうと思ってどの花を見てもぴんとこなかったけど、なぜだか今、確信した。

心が優しさに満たされて、泣いちゃって、感受性が強くなっているから、ってのもあると思う。もしかしたら、記憶を捏造してより一層感傷的になりたいだけかもしれない。

でも。
心が絶対〝これ!〟って言ってる。


「うん、あるよ。鮮やかな黄色」


砂岡くんは目線を合わせ、きっぱりとそう言った。
私の記憶が間違いじゃない、と証言してくれるように力強い。


「砂岡くん、このお花、どうしたの? 買ったの?」
「もらったんだ。昔からの常連さんに」


私は指先で慎重に、一輪の花を掴んだ。


「ほんとに食べられるの?」
「うん」
「菊とかも食べるもんね、それと同じ?」
「うん。食べてみる?」
「……ううん。もらえるなら、このまま大切にしたいな。大事な思い出があるお花なの」


手のひらにのせ、胸にあてると「そうなんだ……」砂岡くんはなにかを考えるように言った。
< 34 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop