昨日の夢の続きを話そう
「だから嬉しい。ありがとう、砂岡くん」
「いや、香澄さん、相当食欲ないみたいだったから。こういう、普段あまり食べ慣れないものだと興味が湧いて、楽しくて食べたくなるかなって思って」


照れ臭そうに頭を掻いて言った彼を見ると、偶然再会させてくれてありがとうっていう思いとは別の〝ありがとう〟が胸にこみ上げてくる。

出会ったばかりなのに。
私のことなんか気にかけてくれて、ありがとう、って。

トマトスープを飲み干して、体がぽかぽかしてきた頃。


「あの、さ。この前、お友達と話してるのが聞こえちゃったんだけど」


膝を崩し、あぐらをかいた砂岡くんが言いづらそうに口を開いた。


「香澄さん、結婚するの?」


花時計カフェで砂岡くんを待っていて、亜美と話してたとき、か。


「ううん。しないよ」
「じゃあ、これって……」


言いながら、砂岡くんは首を回して押入れを見た。
襖が開きっぱなしの中には、スーツやらシャツやら島中先生の私物がハンガーにかかっている。


「元彼のものなんだ」
「同棲してたの?」
「ううん。ここ職場から近いから、泊まってそのまま荷物とか置いてってて。取りに来れないんじゃないかな。新生活に手一杯で、来る余裕がないんじゃないかな……」
「新生活?」
「ええっと……」


どう説明したらいいだろう。
私じゃない人と、家庭を持つんだよ、って?すごく、惨め……。

砂岡くんは一体どの程度亜美の話を聞いていたかわからないけど、きっと勘が働いて察したのだと思う。
それ以上、私が落ち込むようなことは聞いてこなかった。


「ごめんね。なんか辛気臭い話しちゃって」
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