昨日の夢の続きを話そう
……大企業の御曹司、ってことだよね。
きっとご実家も大きくて、お手伝いさんも何人もいるんだろうな。
私にはとても想像がつかない遠い世界。
でも、育ちがいいんだろうなーっていうのは、まだ出会って間もないけれど伝わってくる。
花時計カフェの新人スタッフでもなく、料理の先生でもない。
砂岡くんの素性を知ったら、彼が持つ気さくで人なつこい雰囲気に加え、所作や佇まいが堂々としていて気品が醸し出されてた理由がわかり、合点がいったような気がした。
「じゃあ、ちゃんと温かくしてなきゃだめだよ、香澄さん」
玄関でそう言って、砂岡くんは柔らかく微笑んだ。
「はい。今夜は本当に、いろいろとありがとう」
引き戸が閉まり、エンジンの音が聞こえ、次第に遠くなっていった。
「そっか、いなくなるんだ……」
会えなくなるんだ。
お母さんに会えなくなった。
お父さんに会えなくなった。
おばあちゃんにも。島中先生にも。
冬になったら、前田さんにも、砂岡くんにも。
「会えなくなるんだ……」
呟いたら、鼻の奥がつんとして、痛かった。
戸締りをしっかりして、居間に戻る。テーブルの上に置きっ放しにしていた砂岡くんから貰った花を、包み込むように優しく持った。
家があったって意味ない。庭があっても、閑散としていたら意味がない。
私は確かに家が欲しかったけれど、それは物理的なものじゃなく、誰かと作り上げる精神的な寄る辺としての象徴だった。
私にとって島中先生は、それを築くための唯一の望みだったんだ。
子どもだって……。私もほしかった。幸せな家庭を作りたかった。
『ナスタチウム、食べれる花だよ』
憧れてたのは白い家そのものじゃなくて、温もり。食卓、笑顔、今日あったことの会話。
そういうなんでもない日常は、今の私にはとても縁遠いけれど。
希望なら、ひとつだけ、手の中にある。
きっとご実家も大きくて、お手伝いさんも何人もいるんだろうな。
私にはとても想像がつかない遠い世界。
でも、育ちがいいんだろうなーっていうのは、まだ出会って間もないけれど伝わってくる。
花時計カフェの新人スタッフでもなく、料理の先生でもない。
砂岡くんの素性を知ったら、彼が持つ気さくで人なつこい雰囲気に加え、所作や佇まいが堂々としていて気品が醸し出されてた理由がわかり、合点がいったような気がした。
「じゃあ、ちゃんと温かくしてなきゃだめだよ、香澄さん」
玄関でそう言って、砂岡くんは柔らかく微笑んだ。
「はい。今夜は本当に、いろいろとありがとう」
引き戸が閉まり、エンジンの音が聞こえ、次第に遠くなっていった。
「そっか、いなくなるんだ……」
会えなくなるんだ。
お母さんに会えなくなった。
お父さんに会えなくなった。
おばあちゃんにも。島中先生にも。
冬になったら、前田さんにも、砂岡くんにも。
「会えなくなるんだ……」
呟いたら、鼻の奥がつんとして、痛かった。
戸締りをしっかりして、居間に戻る。テーブルの上に置きっ放しにしていた砂岡くんから貰った花を、包み込むように優しく持った。
家があったって意味ない。庭があっても、閑散としていたら意味がない。
私は確かに家が欲しかったけれど、それは物理的なものじゃなく、誰かと作り上げる精神的な寄る辺としての象徴だった。
私にとって島中先生は、それを築くための唯一の望みだったんだ。
子どもだって……。私もほしかった。幸せな家庭を作りたかった。
『ナスタチウム、食べれる花だよ』
憧れてたのは白い家そのものじゃなくて、温もり。食卓、笑顔、今日あったことの会話。
そういうなんでもない日常は、今の私にはとても縁遠いけれど。
希望なら、ひとつだけ、手の中にある。