一途な小説家の初恋独占契約
ジョーは、私が試着した洋服のほとんどを買ってくれていた。

「こんなに買ってもらうわけにはいかないよ。ちゃんと私が払うから」
「僕の我がままだから、受け取ってくれると嬉しい」
「でも、さすがにこんなに……」
「好きな子に、おいしいものを食べさせて、きれいなものを着させたいって言ったでしょ。お願いだから、僕の楽しみを奪わないで」

ジョーは、指と指を緩く絡めるようにして、私と手を繋ぐ。

青葉の繁る表参道に、霧雨が落ちてきた。

私の取り出した折り畳み傘を奪うと、ジョーは私の肩を抱く。

「濡れるよ。もっと僕に近づいて」

両肩に、ジョーの熱を感じる。
見上げると、穏やかな微笑が降って来た。

小さな傘の中、私はジョーに守られていた。
苦しいほどに、愛情を感じる。

……ジョーに愛されている。

それが、なぜだかストンと素直に感じられた。

8年ぶりの突然の再会、友だちだと思っていたジョーからの告白に、ジョーの気持ちを疑っていたわけではないけれど、戸惑いの方が大きかった。
今ほど、実感したことはなかった。

言葉がなくても、伝わってくる。

……汐璃が好き。
大好きだよ、汐璃……。

ジョーの瞳が、支えてくれる腕が、温めてくれる体温が、何かもがそう伝えてきてくれていた。
ほとんど文字を通してしか交流がなかった私に、全身で訴えかけてきてくれていた。

それが分かって、泣きそうになる。

足を止めて見上げた私に、ジョーは優しく微笑んだ。

強張ったこめかみに、そっとキスをされると、堪えきれずに涙が一つ零れた。

私がなぜ泣いているのか、きっとジョーには分かっていた。

だから、ジョーは何も言わず、グッと私を一瞬抱き寄せ、額に口付けると、静かに私を車に乗せ、レストランまで連れて行ってくれた。
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