一途な小説家の初恋独占契約
ふわりと微笑んで、私を連れて歩き出す。

その姿は、堂々としている、ステージに立つジョーだった。

取材の前に見せる不安そうな姿じゃない。
それは、今の私だった。

私がジョーを励ますように、今のジョーは、私を素敵な空間に導いてくれる。

「こんばんは。先ほど予約した早見です」
「いらっしゃいませ、早見様。お待ちしておりました」
「急な予約を受け入れてくれて、ありがとう。久しぶりに日本に来たからには、日本で一番おいしいものを彼女に食べさせてあげたいと、コンシェルジュにお願いしたんです」
「それで当店を選んでくださったとは、光栄です。どうぞ、こちらへ」

お店の人は、柔らかく微笑んで、当日に急遽予約を入れた私たちを迎え入れてくれた。

ジョーのことを知ってか知らずか、個室の部屋に案内される。
昼間、たくさんの人たちの視線を浴びてきたから、視線を感じなくて済むだけで落ち着いた。

「さあ、汐璃。言ったとおりだ。これも僕の我がままだからね。日本一おいしいものを楽しもう」
「ありがとう。ジョーが、たくさんがんばったご褒美のご相伴だと思って、楽しむわ」

食事は、素晴らしく美味しかった。

ここの料理は、和食を始め、世界の色んな料理に使われる素材を意欲的に取り入れつつ、フランス料理特有の丁寧な仕事ぶりが高く評価されているらしい。
そんなことを知ったのは、随分後になってからだったけれど、何も知らなくても、グルメじゃなくても、驚くほど美味しいものというのは伝わるんだなと思った。

きっと、ジョーの小説も同じ。

ジョーの小説は、女性向けの恋愛小説レーベルという枠を超えて、世界的な大ヒットになった。

元々の読者層だけだったら、こんなベストセラーにはならない。
老若男女問わず、普段恋愛小説を読まない人にも受け入れられたからこそ、高く評価されたのだ。
< 110 / 158 >

この作品をシェア

pagetop