一途な小説家の初恋独占契約
「ネットにあった情報は、汐璃の家の住所と、僕が出入りしているらしいという文章だけだ。日にちに関する情報はない。写真でもあれば、洋服を見て、キミは判別できたかもしれないが、それもない。いつからいたとか、ずっと泊まっていたのかだとか、近所の人だって、そう分からないはずだ。キミは、汐璃の家を見張っていたのか?」

「俺は、そんなことしてない! 生駒が、窪田とお前が夜になっても一緒にいたとぼやくから、翌朝行ってみただけだ。案の定、お前は窪田の家から出てきた。それに、いつも一緒に帰ってるから……!」

「生駒さん……? 南北書店の生駒チーフですか?」
「……ああ」

直島さんは、気まずそうに頷く。

私と同じように、入社当時南北書店に研修に行った直島さんは、同い年の生駒さんと仲が良い。

初めてジョーが私の家に来た日、ラーメン屋さんで私たちに会ったことを生駒さんが話したのだろう。
それで翌朝、場所を聞いて、家まで見に来たのかもしれない。

どうやって家の場所を知ったのか分からないけれど、同じ会社に勤めているのだから、何か方法があったのかもしれない。

もしくは、生駒さんには、近所に住んでいるということもあって、お互いの家の大体の場所は、世間話として伝えていたから、その情報を元に、本気で見つけようと思えば、家を特定することもできるだろう。
表札も出しているし、うちは崖の上という少し特徴的な立地にある。

「……少し騒ぎになればいいと思っただけだ。お前が、窪田の家にいるらしいって、ちょっとネットに書き込んだら、このザマだ」
「なんでそんなこと……」

呟いた私に、直島さんが向けた視線は、見たことのない暗いものだった。

「営業部のお前が、編集に出しゃばってくるからだろ! 俺が編集部に来るまで、どれだけ努力したと思ってるんだ……!」
「直島さん……」
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