一途な小説家の初恋独占契約
今は、第二編集部にいる直島さんは、入社当時は営業部にいたと聞いたことがある。
それで、私と同じく書店研修にも行った経験があったのだ。

その後、他部署も経験し、ようやく編集部に来たのが二年前。
念願かなって配属になったものの、新卒から編集にいる人たちとは差があり、苦労していたそうだ。

「注目のベストセラー作家ジョー・ラザフォードが、日本人の女の家に居座っていると知られたら、世間は放っておかないだろう。うちの会社だって、窪田を離すしかない。
俺に気のあるそぶりを見せながら、そいつが現れたらコロッとなびきやがって。手柄を横取りしようとするから、こうなるんだ。いい気味だ」

「私、直島さんのことは職場の先輩として尊敬していましたが、それ以上の気持ちを持ったことはありません。仕事は、指示を受けたから従ったまでで、編集部の邪魔をするつもりは、全くありません」

「キミの話は、矛盾が多すぎる。それは、ただの八つ当たりだ。さっきも言ったように、汐璃には、全く否がない。その彼女を傷つけたキミを、僕は許さない」

ジョーが強く言うと、その勢いに圧倒されたのか、直島さんは、ビクリと体を強張らせた。

「相応の報いを受けてもらう」
「……先生の言う通りよ。言いがかりも甚だしい。大体あなた、なんで先生のいるホテルにいたの? 今日は、オーストラリアの出版社と面談があったはずじゃなかった?」

寺下部長の指摘に、直島さんは居直ったのか、躊躇うこともなく真相を口にした。

「ええ。その出版社の社長と、あのホテルで会ってたんですよ。そしたら、ジョー・ラザフォードがいたと言うから、鎌石に教えてやったんだ。そしたら、あの女、案の定ノコノコ出てきやがった」

「……確かに、部屋に入るとき、ちょうど隣室から出てきた社長と出くわして、話しかけられた。顔が知られると不便だとは思ったが、こんなことになるとは……」

ジョーが、がっくりと肩を落とした。

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