一途な小説家の初恋独占契約
その社長さんが直島さんに口を滑らせたのは軽率な気がするけれど、きっと直島さんが、ジョー・ラザフォードの日本での出版を請け負っている清谷書房の社員だから言ったのだろう。
それを、他社の鎌石さんにまで教える直島さんの方が、ずっと悪い。
寺下部長は、こめかみを揉んでいた手をテーブルの上で組んだ。
冷徹な、管理者としての姿がそこにはあった。
「処分は追ってしますが、覚悟しておいてちょうだい」
「部長、俺は……」
「まだ言い訳があるの? 正当な理由があるなら、言ってみなさい!」
「でも……」
まだ言い募る直島さんの言い分を、寺下部長は聞く端から断じていき、結局直島さんの主張が通ることはなかった。
直島さんを会議室から出すと、寺下部長は、私たちに謝罪した。
寺下部長に、責任を求めるつもりはない。
部長は、会社の利益のために、最善と思うことをしていただけで、直島さんの行動を予想することはできなかった。
「それより……」
他に、気になっていることがある。
ジョーが、私を見て頷く。
「寺下さん、契約の件ですが、僕の著作物を清谷書房で邦訳出版する契約の条件として僕が出したのは、翻訳者を窪田汐璃にすること。
その場合、僕の全ての著作物についての出版権を、清谷書房に独占的に優先させる権利をつけてもいいと言いましたね」
「ええ。ただし、窪田さんの翻訳力が弊社の求める基準を満たさない場合は、基準を超えるまで待つこと。
1年以内に基準に達しない場合は、再度交渉をするということでした」
「……え?」
ポカンとする私の肩に手を掛け、ジョーは私を自分の方へ向かせた。
「そういうことだ、汐璃。僕は、キミの訳文なら何でもいいなんて思っていない。出版社の基準を満たせる文章を、キミなら書けると信じている。もし、今は書けなかったとしても、きっとすぐに。だから、これは不当な条件なんかじゃない」
「……ジョー」
それを、他社の鎌石さんにまで教える直島さんの方が、ずっと悪い。
寺下部長は、こめかみを揉んでいた手をテーブルの上で組んだ。
冷徹な、管理者としての姿がそこにはあった。
「処分は追ってしますが、覚悟しておいてちょうだい」
「部長、俺は……」
「まだ言い訳があるの? 正当な理由があるなら、言ってみなさい!」
「でも……」
まだ言い募る直島さんの言い分を、寺下部長は聞く端から断じていき、結局直島さんの主張が通ることはなかった。
直島さんを会議室から出すと、寺下部長は、私たちに謝罪した。
寺下部長に、責任を求めるつもりはない。
部長は、会社の利益のために、最善と思うことをしていただけで、直島さんの行動を予想することはできなかった。
「それより……」
他に、気になっていることがある。
ジョーが、私を見て頷く。
「寺下さん、契約の件ですが、僕の著作物を清谷書房で邦訳出版する契約の条件として僕が出したのは、翻訳者を窪田汐璃にすること。
その場合、僕の全ての著作物についての出版権を、清谷書房に独占的に優先させる権利をつけてもいいと言いましたね」
「ええ。ただし、窪田さんの翻訳力が弊社の求める基準を満たさない場合は、基準を超えるまで待つこと。
1年以内に基準に達しない場合は、再度交渉をするということでした」
「……え?」
ポカンとする私の肩に手を掛け、ジョーは私を自分の方へ向かせた。
「そういうことだ、汐璃。僕は、キミの訳文なら何でもいいなんて思っていない。出版社の基準を満たせる文章を、キミなら書けると信じている。もし、今は書けなかったとしても、きっとすぐに。だから、これは不当な条件なんかじゃない」
「……ジョー」