一途な小説家の初恋独占契約
「そんなことより、ジョー君、うちに連れてきなさいよ」
「ジョーは、仕事が忙しくて」
「あら、残念。時間ができたら連れてきて。あ、お父さんに代わるわね」

思わず、時計を見る。
まだ、7時過ぎだ。
こんなに早く、父が家にいるなんて、私が実家にいた頃はなかった。
まさか、お父さん……。

「汐璃、元気にやってるか」
「うん。お父さん……今日は、早いんだね?」
「実はな……」

言いよどむ父に、不安が募る。

父は、退職後、かなり苦労してから、再就職先を見つけた。
まさか、そこを首になったんじゃ……。

父は、意を決したように声を張り上げた。

「実は、昇進の内示があったんだ。だから、今夜は残業しないで、家でお祝いでもしろと早く帰されてね。元々、前の会社みたいな無茶な働き方はしない会社なんだよ」
「そ、そっかぁ……! 良かったね!」

ド、ドキドキした!
ホッと胸を撫で下ろしている私に、父は続ける。

「だから、お前一人くらい、まだまだ養える」
「え?」
「うちに帰ってきて、また勉強したらいい。専門学校、途中でやめてもらって、悪かったな」
「そんな! 大学まで出してもらって、感謝しかないよ!」
「……そうか」
「うん。お父さん、今度私もお祝いしに行くね」
「ああ。前もって分かってたら、お前も今日呼んだんだけどな。金曜日とはいえ、仕事があるだろうに、急に呼ぶのはどうかと思ってな」
「うん、また改めて行くよ」
「ああ、待ってる」

少ししんみりした私たちの合間に、妹の「お父さん、代わって」という声が忙しなく入り込む。
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