溺愛プリンス～秘密のフィアンセ～
勢いよく従業員用のドアを開けて私の名を呼んだ。

「…美々！！、シェフ、美々は？！」

厨房は後片付けが終わった頃で、スタッフ達は、何事かとルイを見る。

そんなスタッフ達をかき分けて、シェフが現れた。

「…ルイ、こっちに来い」
「…美々は？」
「…いいから、来い」

シェフに引っ張られ、外に出たルイはもう一度、問いかけた。

「…美々は？」
「…もう、ここにはいない」

「…どう言うことだ？どうしていない？アパートももぬけの殻で」

「…美々は、楓と共に、海外に行ったよ」

ルイは、耳を疑った。

…海外に？

…楓と共に？


「…迎えに来るのが遅すぎたんだ、ルイ」
「…」

「…あんなに痛々しい美々を見ていられなかった」

ルイは、シェフの胸ぐらを掴んで、壁に打ち付けた。

「…どうして？！どうして引き留めてくれなかった」

「…ルイ、誰のせいで、美々の笑顔を無くしたのか、分からない筈はないだろ？お前のせいだよ。会えなくても、連絡だけでも出来ただろ？どんなに遅くなっても、１分でも、数秒でも声が聞けたら、美々は信じてお前を待ってた。でも、それをしなかったのはお前だろ？もう美々の事は、忘れろ。美々を傷つけるな」

言いたいことだけ言って、シェフはさっさと、ルイをその場に残し、店内に帰っていった。

その場に取り残されたルイは、その場にしゃがみこんで頭を抱えた。
< 65 / 72 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop