王子様とハナコさんと鼓星


荷物を持ちエレベーターに乗ってエントランスに出る。すれ違った住人に挨拶をしてからマンションを出ると雨が少し降っていた。


バックから折りたたみ傘を出して近場のコンビニに寄り飲み物を買ってからバス停に向かう。


5人ほどの列になっていて、その最後尾に並ぼうとすると目の前に黒い大きな傘を差した人が立ち止まった。


避けようと右側に避けるとその人も同じ方向に避け反対に行くとまたも反対側にそれる。


「あ、ごめんなさい」


避けるのをやめて立ち止まると、その人は傘から私の顔を覗き込み鬼の形相で見上げてからクルッと向きをかえて去って行った。

「え…?」

(な、なに、今の人)


全く知らない人に睨みつけられ唖然としているとバスが到着する。並んでいる人が次々と乗り込み、はっと我に返ってバスに乗り込み一番後ろの席に腰掛ける。


(さっきの人…なんだったんだろう)

鞄を胸に抱えてバスの中から振り返る。もう先ほどの人は見えない。


睨みつけられた時、一瞬だけその目が聡くんと重なった。無精髭を生やして顔も体格も全然違うのになんでだろう。なんだか嫌な予感がする。

(帰り、気をつけよう)
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