王子様とハナコさんと鼓星


***

その日の業務終了後、着替えてホテルを出ると朝から降っていた雨は勢いが増していた。

小さな折りたたみ傘を差しながらスーパーに立ち寄り買い物をしてからバスに乗り込む。

マンション近くのバス停で降り、駆け足でマンションの入り口に繋がるアーケード内に入った。

「凄い雨。濡れちゃった」

荷物を一度置いてから服についた水滴を払う。


(帰ったら服を洗わないと…)


払い終わり置いた荷物を持ち入り口に向かう。すると、背後に誰かの気配を感じて振り向くと黒い雨具を被った男性らしき人が2人立っていた。


「わぁ…びっくした。こ、こんにちは」


驚いた。黙って背後にいるなんて。いつから居たんだろう。


雨具のフードから僅かに見える顔を見るとマクスで口元を隠していてよくわからない。でも、マンションの住人らしくもない。


軽く会釈をしても反応はなく「変な人。関わらない方がいいかも」そう思い今一度お辞儀をすれば、1人の男性が手を伸ばし突如肩に掛けたバックを掴まれた。


「え…ちょっ…え?」

振り回すように掴んだバックを引っ張られる。咄嗟の事で反応なんて出来なく身体が前屈みに倒れコンクリートの地面に叩きつけられた。


「あっ、きゃっ」


(い、いた…い)

鈍い痛みが全身に走り顔を歪める。倒れて起き上がることが出来ない私から男性は素早くバックを奪い取り大雨の中を走っていった。

え、なに、いまの…


僅かな力を込めて身体を起こすと、もう1人の男性が私の腕を掴んだ。
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