王子様とハナコさんと鼓星
「え…ちょっ、いやっ」
座り込む私の脚に跨がり、手首を捻り上げ左手の指輪に手を掛けた。
凛太朗さんから貰った婚約指輪。あの時から仕事とお風呂に入る時以外はいつも付けていた。
私の大切なもの。こんな結婚なのに、凛太朗さんが私のために選んでくれた大事な指輪。
(もしかして、指輪も…?)
掴まれた左手を握りしめる。反対の手で男性の太ももを何度も叩くが力強い手で握った指を解いていく。
(だ、だめ…指輪は…渡せない)
「い、いや。は、離して」
「うるせーよ、離せ!」
髪の毛を掴み、起こした身体を突き飛ばす。が、身体が男から離れたその一瞬の隙を狙って立ち上がる。
ズキッと全身に電流が流れるような痛みが流れる中、アーケードを走って出ると男性は大声で叫び私を追いかけて来た。
「おい!止まれ!」
マンションの中に番号を入力して逃げる時間なんてない。走りながらマンションの警備員がいないか探しても何処にもいない。
怖い。ど、どうしよう。追いつかれたりでもしたら、今度は命が危ないかもしれない。
男性から逃げるように敷地内を出て、目に付いた近所のコンビニに一か八かの勝負で駆け込んだ。
店内には男女の定員が1人ずつと数人のお客の姿があった。
レジにいる男性と目があい、なんとかその場まで歩いて腰が抜けたように座り込んだ。
2人組みの男性にバックを奪われた事、追い掛けられた為に逃げ込んだ事を説明する。
息を乱し、手から血を流す私を男性は疑う事なく反対のレジにいた女性に声を掛け人目に付かないようにバックヤードに入れてくれた。
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