王子様とハナコさんと鼓星


「あの、凛太朗さん?」


話すなら早い方がいい。私に起きた事を話そうと顔を上げれば彼は人差し指を自分の唇にあて片目を閉じた。


「それは、家に帰って落ち着いてからにしよう。ずっと病院にいたから疲れたでしょ?」


身体を離して凛太朗さんは時計を見る。もう、21時を過ぎていた。


「はい。わかりました。あっ…そうだ…あの、これは言わないといけない事で、盗まれたバックの中にマンションの鍵とかセキュリティカードとかも…」


この話は、凛太朗さんにしないといけない。


スマホやクレジットカードの類いは、手当てが終わって少し時間を貰ってカード会社に電話をして止めて貰った。

でも、マンションの事だけは私にはどうする事も出来なくて…


「その事なら大丈夫だよ。針谷が管理会社に連絡して急いでかえて貰う事にしたから。番号も複雑だから分からないと思う。あと、監視カメラとか入室履歴も残るから入られることはないよ。あ、それとも不安なら引っ越す?」


「い、いえ。そんないい部屋なので勿体無いです。でも、それなら良かったです。安心しました。本当にごめんなさい」


「不可抗力の出来事なんだから、謝らない。立てる?帰ろう」


手を差し伸べ重ねてくる。椅子から立ち上がり、僅かな痛みを感じながら部屋を出た。


その後、凛太朗さんは私を待合室に座らせてから病院での治療の手続きをおわらせて、塗り薬を貰ってくれた。


それが終わればまた手を重ね、病院を出て車に乗り込みマンションに戻った。

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