王子様とハナコさんと鼓星
「そう言えば、今日の午後からデートの約束をしていたね。残念だけど、今回はお預けだ」
「はい…仕方がありません」
「聞き分けがいいね」
回した手を離して、鞄を持ち時計の時間を確認する。
「でも、予定は空けていたから14時くらいには帰ってくるよ。部屋で悪いけど、映画でも見ようか」
「は、はい!」
「じゃあ、行ってくるよ」
行ってらっしゃい。そう返して凛太朗さんを見送る。ドアを締め大きく息を吐いて両頬を手で包む。
部屋で映画か…楽しみかも。出掛けられないのは本当に残念だけど、部屋で映画デートも悪くない。
頬が緩み、無意識にニコニコしながらリビングに戻ればドアの影からゲンマがジッと私を見ていた。
「な、なに?ゲンマ」
大きな美しい瞳。何かを悟られているような気がしたもの、敢えて考えないようにしてリビングの中に入った。