王子様とハナコさんと鼓星

それから小一時間ほど経ってから、針谷さんが迎えに来てくれた。


車に乗り込み、警察署に着くと昨日と同じようにバックを奪われた時の詳細を話す。その後は被害届の書類内容を確認するなどのやり取りを行い、言われていた通り3時間ほどで終わった。

「すみません。こんな所まで付き合ってもらっちゃって…」

署を出て、何処か寄りたい場所はないか?と、針谷さんに言われスーパーに立ち寄ってもらっていた。

てっきり車の中で待っているのかと思えば、車を降り「手の怪我にさわる」と言いながら買い物のカートを押してくれる。


さり気無い気遣いが嬉しい。ありがとう。と、野菜をカートの中に入れながら言う。


「いえ。社長の奥様ですから気にしないで下さい。それより新婚生活はどうですか?お互いをよく知らない状態での結婚は大変ではないですか?」


「えっ?」


針谷さんからそんな事を聞かれ困った。支配人に言ったように楽しいと言っても、私達の馴れ初めを知っているのなら嘘だと分かってしまうから。

なんて言おうかな。頭の中で沢山の言葉を並べ、近くの棚に並べられているオレンジを手にとる。
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