王子様とハナコさんと鼓星

帰りも車に乗るときは気をつけないと。

まだ、誰かに目撃されるわけにはいかない。

(さて、今日は何を作ろうかな。凛太朗さん…遅くなるのかな?メールは来てないから、遅くはならないのかも)


エレベーターの前に着き、下のボタンを押してから到着を待っていると少し離れた場所で話し声と足音が聞こえて来た。


「やっぱりね。いつかはそう言ってくると思ってたよ」

(あっ…この声って…凛太朗さん?)

胸がドキドキして来た。会いたいけど、結婚してから会社では顔を合わせていない。

どんな対応すればいいのか分からない。社長って、呼ばないとだよね。


「はい。去年と同じ額ではもう取引はしないと。ちなみに、こちらが指定された額です」


「へぇ…随分と鼻が高くなったね。廃業寸前で必死に営業に来ていたからその熱意に負けて3年取引をしたって言うのに。ホテルの名前を楯に有名になった途端これか」


「結構粘ったのですが、半年前に世代交代で社長が変わってからこの調子です。

「先代の面汚しもいいところだ」


(…な、なんか。聞いたらいけない話かも)

優しい口調や冷たい感じでもない。呆れや苛つきが入り交じったような声。

早くこの場から立ち去りたい。
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