王子様とハナコさんと鼓星
だんだんと近づいてくる声。それでもエレベーターはまだ真ん中。
「もう切ってもいいよ。あの会社の製品は確かに優れているけれど、個人的には先代の社長が好きだったからね。契約満期で終わりにして次を探して。最終的に相談して来たって事は目星はもうあるの?」
「はい。隣県の企業ですが」
「分かった、資料頼んだ」
「はい。ところで…」
「あれ、村瀬さん?」
「…あっ」
(間に合わなかった)
曲がり角から凛太朗さんと男性が姿を現わす。ぺこりと頭を下げ「お疲れ様です」と言えば隣の男性はチラりと私を見てからその場を去っていく。
「お疲れ様。どうしたのこんな所で」
「総務部に休暇届けを提出に来ました」
「そう」
音を立て、エレベーターが着きドアが開く。
「では、帰りますね」
「分かった。また後でね」
笑顔で手を振られ、胸がキュンとしてしまう。ぎこちなく手を振りエレベーターに乗り込みドアを閉めた。
(なんか、今のやり取り…なんか良いかも。社内恋愛って、こう言う気分なのかな)
壁に寄りかかり緩む頬を掴む。そう言えば、凛太朗さんが仕事の話をしている所、初めて遭遇したかもししれない。
見慣れない姿に驚いたけれど、少しだけ新しい姿を見れた事が嬉しかった。