王子様とハナコさんと鼓星
(辛そう。遅いことも初めてだけど、こんな風になって帰って来たのも初めて)
荷物をソファーに置く。冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、コップに注いでから凛太朗さんに渡す。
「どうぞ。オレンジジュースは酔い覚ましにいいんですよ。あまり甘くないものなので凛太朗さんでも大丈夫かと」
「ありがとう。会長からの指示で急遽参加する事になってさ。ご飯、用意してた?」
複雑な結び方のネクタイを緩めワイシャツのボタンを2つ外して、ジュースを飲む。
「大丈夫ですよ。お仕事ですから」
キッチンに戻りジュースを冷蔵庫に入れて振り返ると、何故か凛太朗さんは頬杖を付きながら私をジッと見つめている。
「あ、もっと飲みますか?」
「大丈夫。ただ、俺の奥さんはなんて可愛いんだろうなって見てた」
「なんですか、いきなり…よ、酔いすぎですよ」
「ねぇ、なんか今日は物凄く可愛く見えるんだけど。なんでかな…そっち行っていい?」
「え?ちょっ、まって、あっ」
椅子から立ち上がり、逃げようとする私の手を握る。息を吐く間も無く身体を引き寄せられ、目の前にはワイシャツの隙間から胸板が間近で見えた。
久しぶりの強引な接触に身体は緊張で凍りつく。
(ど、どうしよう。力強くて逃げられない)
毎日ハグをしていて大分ハグには慣れていた。でも、それは壊れ物に触れるようなハグ。それなのに、今の凛太朗さんは私の身体を力強く抱いている。