王子様とハナコさんと鼓星
「ありがとう。しっかりした奥さんみたいだね。社長にもやってるの?」
「や、やりません。あの人は私がやらなくても完璧だもん。手の施しようがないくらい」
「ははっ、だろうね。じゃあ行くよ、またね」
「またね!」
手を振り一ノ瀬くんを見送る。すると、突然背後からエプロンの裾を掴まれた。
振り返るとそこには小さな女の子。まだ3歳くらい。
「どうしたの?」
台車のストッパーを下ろし、帽子を取ってしゃがみ込む。目線が同じになると、女の子は大きな瞳から更に大粒の涙を流す。
「ママ…が」
「ん?ママ?」
「ううっ」
「ママがいないの?」
ポケットからハンカチを取り涙を拭く。それでも涙は止まらない。子供の迷子はホテル内でとても多い。掃除をしていて今まで何度も迷子になる子に出会っている。
「大丈夫だよ。よし、一緒にママを探しに行こう。おいで」
手を広げると、女の子も同じように手を広げ飛び付く。小さな身体を抱き上げ、レセプションに向かう。