王子様とハナコさんと鼓星
「あれ…凛太朗さん?」
「お疲れ様」
「お疲れ様です」
手を止めて個室から出る。たった2日会っていないだけなのに随分と久しぶりに感じる。
「久しぶりだね」
「は、はい」
ドアを閉め、ゆっくりと近づく距離。大理石の床には凛太朗さんの靴の音がよく響く。
「もう、トラブルとかは大丈夫なんですか?」
「まぁ、一段落かな。あとは向こうのスタッフに任せて帰って来た。それで、顔が早く見たくて針谷の目を盗んで会いに来ちゃった」
(嬉しい。家で会えるのにわざわざ会いに来てくれるなんて)
なんのトラブルがあったのかはよく分からない。凛太朗さんの仕事の事は聞いたらいけない気がするから。それに、私では助けになる事も出来ない。
「そうですか。今日は家に帰って来れますか?」
「うん。少し遅くなるけど、ご飯は食べる」
「分かりました。待ってます」
「ねぇ、華子」
ふと、凛太朗さんが私の名前を呼ぶ。彼を見上げて首を右側に傾げた。するとポケットに手を入れ何も言わずに作り笑顔を私に向ける。