王子様とハナコさんと鼓星

「友達の彼氏です!私が入社当時からの付き合いってだけで…それはあり得ません」

「俺には見せない顔で笑っていたよ。ネクタイなんて直して、イチャイチャではないと」


「よく3人で遊びに行くので慣れているだけです。ネクタイは曲がっていたからで…と、言うか…よく私の帽子を取ってからかっていたのは良いんですか?見られたら印象良くないですよ」


売り言葉に買い言葉。反論して彼から視線を外す。

洗面台から身体を離し、ポケットに突っ込んだ手で彼は自身の耳朶を掴んだ。

「俺はいいんだよ。社長だから」

「社長ならスタッフの見本になるべきです」

「は?ははっ、言う様になったね」

「だ、だって…とにかく一ノ瀬くんは友達の彼氏です。凛太朗さんが考えている様な事はありま…あ、きゃっ」

唐突に私に向かって伸ばされた手は首に巻き付き引き寄せられる。反射的に手で凛太朗さんの胸元を押さえようと考えた。

なのに、手に嵌められたゴム手袋が頭に浮かび両手を開いた状態であっさり抱き締められてしまった。
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