王子様とハナコさんと鼓星
その音は速くリズミカル、聞いていて心地良い。そっと目を閉じた。それが何かの合図の様に身体を離してコツンと頭同士を重ねた。
「全く、本当にまた格好悪い所を見せたかも。驚くかもしれない。唐突に言うけど…俺はどうやら華子に惚れちゃったみたい」
「そ、それは…本当に唐突です」
「だって、予想外に惚れる要素があり過ぎた。夢の事もあるけど、ただのきっかけ。俺とは違う人間性とか、頑張り屋な所とか、襲われたクセにヘラヘラしてる変な所でメンタルが強いとか」
「そ、それは褒めてますか?」
「当たり前だよ。あと、この前の事とか…女の子にあんな恥ずかしい場面を見せた事ない。介抱されたのも初めてで…この2日トラブルを片づけながら考えたけど…本気で華子の事は頭から離れなくて、考えた結果…蠍の毒にやられてしまったよ」
額を離して両頬を包み持ち上げる。これから何が起きるのかなんて愚問かもしれない。
目と目が合い、ゴクリと息を飲む。
「華子は俺にまだ惚れてないかな?」
「それは…」
「俺の予想なら、俺と同じ気持ちだよね。さっき抱き締めた時…ドキドキしてた」
「うっ…あの」
「同じなら目を閉じて」
「ここ、トイレですよ。全然、ロマンチックじゃないです」
「いいと思うよ。王子様の口付けをトイレで貰うなんて何処の御伽噺にもないね」
こ、この人は本当に口が上手い。凛太朗さんの言う通り。私だって、気付き初めたばかりだけど同じ。数秒迷った。でも、触れてみたいって思った。
聡くんとの事からずっと離れていた恋。もう、初めてもいいよね。凛太朗さんなら、大丈夫だよね。
目の前が暗くなった時、耳の後ろに手が移動する。やけに色っぽい手の動きに身を回せると、触れるだけの優しい口付けが落ちて来た。