王子様とハナコさんと鼓星


それが終わるとお風呂に入り、テレビを見る。

時計の針が23時半を過ぎた頃に凛太朗さんはソファーから立ち上がりゲンマを胸に抱く。


「さて、そろそろ寝ようか」

「あ、そう、ですね」

テレビを消して、マグカップを流し台に置く。

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

リビングを出てドアを閉める。自分の寝室に入り寝具に横たわってから「あれ?」と思わず声が漏れた。

(な、何もなかった…)

お昼、あんな事があったのに凛太朗さんは帰って来てから終始冷静。ぽろっと好きだと言われてから何もない。指一本も触れられていない。


ガバッと寝具から起き上がり、両頬を掴む。痛くはない。夢じゃない。

桜とあんな話をして、何かされるって思っていたのに…

そんな気分じゃなかったのか、私に魅力がなかったのかな。いや、すぐに寝具に連れ込まれてもその覚悟はまだ出来てないけど…キスくらい、すると思っていたのに。


「なんで、だろう」

そんな疑問を抱いたまま長い夜がふけていった。
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