王子様とハナコさんと鼓星
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「凛太朗さん…荷物…それだけでいいんですか?」
その日の夜、ご飯を食べ風呂に入った後のこと。凛太朗さんはリビングにスーツケースを広げ出張の準備をしていた。
10日も行くと言うのに、スーツケースは随分と小さく中身も最低限のものばかり。
「向こうに必要なものはあるから。荷物多いのも苦手だしね。あ、タオル忘れた」
「持って来ますよ。フェイスタオルでいいですか?」
「うん」
脱衣場に急ぎタオルを数枚取り出す。リビングに戻り凛太朗さんに渡した。
「ありがとう」
「いえ…」
フローリングに座り込む彼と同じように脚を折り曲げてしゃがみ込む。
「華子、俺が10日もいないと寂しいでしょ?」
手を止め、私の顔を覗き込んで来た。お互いの瞳にお互いがうつる。
寂しい?って…そんなの決まってる。
「はい。寂しいです」
「あれ、素直だね。友達呼べるって喜んでいたのに」
「それとこれとは別ですよ」
「そうなの?」
ニコニコと笑いスーツケースを閉める。鍵を掛け立ち上がってソファーの隣に置く。時計を見ると23時。
「あれ、もうこんな時間か」
「明日は朝早くに空港に行きますか?」
「一度会社に顔を出してから行くよ。飛行機は10頃の便だから」
そっかぁ。結局、今日の夜も凛太朗さんとは何もない。帰って来るのも遅かったし仕方がないけど。
「じゃあ、もう寝ましょうか。明日に響くと悪いですからね」
曲げていた脚を伸ばし立ち上がる。すると凛太朗さんはクスリと笑ってから「待って」と私を呼び止める。