王子様とハナコさんと鼓星

***

「凛太朗さん…荷物…それだけでいいんですか?」

その日の夜、ご飯を食べ風呂に入った後のこと。凛太朗さんはリビングにスーツケースを広げ出張の準備をしていた。

10日も行くと言うのに、スーツケースは随分と小さく中身も最低限のものばかり。

「向こうに必要なものはあるから。荷物多いのも苦手だしね。あ、タオル忘れた」

「持って来ますよ。フェイスタオルでいいですか?」

「うん」

脱衣場に急ぎタオルを数枚取り出す。リビングに戻り凛太朗さんに渡した。

「ありがとう」

「いえ…」

フローリングに座り込む彼と同じように脚を折り曲げてしゃがみ込む。

「華子、俺が10日もいないと寂しいでしょ?」

手を止め、私の顔を覗き込んで来た。お互いの瞳にお互いがうつる。

寂しい?って…そんなの決まってる。

「はい。寂しいです」

「あれ、素直だね。友達呼べるって喜んでいたのに」

「それとこれとは別ですよ」

「そうなの?」

ニコニコと笑いスーツケースを閉める。鍵を掛け立ち上がってソファーの隣に置く。時計を見ると23時。

「あれ、もうこんな時間か」

「明日は朝早くに空港に行きますか?」

「一度会社に顔を出してから行くよ。飛行機は10頃の便だから」

そっかぁ。結局、今日の夜も凛太朗さんとは何もない。帰って来るのも遅かったし仕方がないけど。

「じゃあ、もう寝ましょうか。明日に響くと悪いですからね」

曲げていた脚を伸ばし立ち上がる。すると凛太朗さんはクスリと笑ってから「待って」と私を呼び止める。
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