王子様とハナコさんと鼓星
遠回しに離れてと言われたのにも関わらず、私は回した手を離したくなかった。それは凛太朗さんも同じ。私を抱きしめる腕はだんだんと強くなる。
「何もしないから、いい?」
「は、はい…」
聞こえないかもしれない。それほど小さな声で返答した。頭上で息を漏らす声が聞こえたかと思えば身体を離して私の左手を握る。
リビングの電気を消して、寝室のドアを開ける。後ろでゲンマが見つめる中、ドアが閉まった。
寝具に腰を下ろし2人で仰向けに横回る。でも、それはほんの数分の出来事だった。
掛け布団から手を伸ばし、サイドランプがオレンジ色の光を放ち目を細める。寝具が僅かに沈むのを感じて目を開けると凛太朗さんが私の身体に覆い被さっていた。
「な、何もしないって…」
「それ、ただの言い訳だって分かっているでしょ」
そうです。何もしないなんて、それが本当だなんて思っていない。わかってはいたけど、いざ…こうなると怖くなる。
「私…もう何年もしてなくて…凛太朗さんの期待には答えられないかもしれません」
「ははっ、そんな高度なテクニックなんて期待してないよ」
前髪をかきあげ、露わになった額に口付けが落ちた。力強く目を閉じると、今度は瞼に触れる。