王子様とハナコさんと鼓星
遅いな。もう30分は経過しているのに。道が混んでいるのかな?
スマホを一度バックにしまい、おもむろに近場にあった案内掲示板を見上げた時だった。
「華子じゃん」
「ん?……あっ」
背後で名前を呼ばれ振り向く。瞳にその声の主がうつった瞬間、私の身体は凍りついた。
息も出来なくなるほどの圧迫感。全身の血が物凄い速さで駆け巡り視線をそらした。
(なんで、また…聡くんに会っちゃうの?)
近寄らないで。そう思う私の気持ちを知ってか知らずかポケットに手を忍ばせたまま近寄ってくる。
「何してるの?仕事休み?」
「あ…う、うん。友達と買い物に…あの、友達来るからまたね」
「待ってよ」
伸びて来た手が私のバックを掴み引き寄せられる。片手を肩に回され、身体が密着する。
「逃げるなよ。この前全然話できなかっただろ?友達来るまでいいじゃん。つか、あの結婚の話ってさよくよく考えたんだけど嘘だろ?」
「う、嘘じゃないよ。ほ、ほら」
指輪を見せようと左手を上げるが、その手は肩に回されていない方の手に握られおろされる。
「指輪なんて偽装でも何でも出来るからな。なんて、俺は華子が結婚してようがしてなくても関係ないんだわ。最近彼女と別れて溜まっててさ…友達になんか言い訳してホテル行こうぜ」
「だ…ダメだよ。私…本当に結婚してるから」
肩の手を振り払い桜のいるトイレに駆け込もうとするが、聡くんは素早く私の手首を掴んだ。