王子様とハナコさんと鼓星
(風間さんからだ…)
画面を見つめたまま動かない私を不審に思ったのだろう。画面を覗き込み「ちっ」と口をならす。
「なに、電話?切って」
「あの、でも…」
「俺の事をイラつかせたいの?いい加減にしないと、後で痛くするから」
「……っ」
ゴクリと息を飲む。震える手で拒否のボタンを押すと聡くんはニコリと微笑む。
「それでいいんだよ。次、友達にメール」
「…う……ん…」
メールのアプリを開き桜の名前を探すため画面をクスロールする。でも、桜の名前は中々見つからない。
だって…名前の欄には連絡ツールのアプリが嫌いだと言って、メールしかしない凛太朗さんの名前ばかり。
クスロールしても、クスロールしても凛太朗さんの名前だけ。今から帰る。遅くなる。仕事が入ったから先に出勤するね。朝、見かけたよ。仕事頑張ってね。そんな短文のやり取りばかりのメール。
不意に、クスロールする手が止まる。
何処かに飛んでいた意識が突然戻って来たかのような感覚。
(だめ、だよ。こんなの…)
スマホの画面を暗くしてから、バックに放り込む。大きく深呼吸をして、聡くんを見上げた。
「連絡したの?」
「聡くん、ごめん。私、やっぱりこんな事出来ない」
「は?」
「さようなら。もう…見かけても声を掛けないで。私達はあの時に終わったの。もう、あの時には戻れないから」
そう言い、私は踵を返した。近くの階段を降りてすぐに駐車場に向かう。きっと風間さんが近くにいるはず。それを信じて。
桜には風間さんと合流してから電話を掛ければいい。
聡くんから逃げるように小走りになる。階段の手すりに手を掛け、半分ほど降りた時だった。
「華子!」
追い掛けて来た聡くんの手が肩に触れ、嫌悪感が走った。気持ち悪い、そう思い思いきり振り払うと身体のバランスが崩れた。
しまった。そう、思った時には時すでに遅い。
身体は階段に叩きつけられ、大きな音と共に転がり落ちた。