王子様とハナコさんと鼓星


***

『華子、家来るよね?』

『ごめん。今日は友達と約束があって…』

『そういうのは彼氏が優先なんだよ。20時までに来いよ、待ってるから』

(あぁ…まただ)

『華子って本当に俺の事好きなの?』

『好きだよ…』

『なら、俺の言うことはなんでも聞けるよね?』

(もう、やめて…)

『お前が悪いんだよ。お前が俺の手を離したから。俺は悪くない。俺は助けたんだから』


真っ赤に染まった空。真っ赤に染まった大地。

真っ赤に染まった空気。真っ赤に染まった…世界。

(もう。やめて…忘れたいのに…私を見下ろすあの瞳が…怖い)


「…はな」

(もう、呼ばないで。その声で…私の名前を呼ばないで)

「華子」

「い…やだっ」


暗い洞窟から抜けるとそこは美しい青空が広がっていた。

眩い光に顔を歪め、その光を遮ろうと手を伸ばす。顔に触れた瞬間、鈍い痛みが走り抜け思わず触れる手を止めた。

手をおろし、顔を背けてから目を開ければ私の視界には桜がうつる。


「…あ」

「華子?」

「さく…ら?」

(なんで、桜が目の前にいるの?)

妙に長い沈黙が流れる。いま、起きている事の全貌が分からない。

何故か痛い身体を起こすと、見慣れない部屋。そして、なんで桜が涙を流しているのか分からなかった。
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