王子様とハナコさんと鼓星
いつも元気で、いつも笑っている桜。泣く所なんて見たことがない。
そんな桜が両手で顔を覆い、肩を震わせながら声を抑えて泣いている。
呆然とその姿を眺めていれば、カーテンの隙間から1人の女性が顔を出す。
「桐生さん、目が覚めた?良かったわ」
「あ、こんにち…」
女性が身に纏う衣服を見た時、瞬時にここが病院だと分かった。同時に脳内に色々な映像が駆け巡りゴクリと大きく息を飲む。
(そうだ…わたし…)
手の平を見る。いつもの肌色。赤くない。
「あの…私は…」
「覚えてるかな?階段から転がり落ちたみたいね。何処か痛いところはある?」
「少しだけ、身体が…」
(と、言うか…なんだろう。視界がおかしい)
いつもみている景色に違和感を感じる。左の目がなんかおかしい。
手をそっと伸ばして、その違和感の正体に触れる。何かがある。
「あ、まだ触らないでね。転んだ時に眉毛の先の方を切ったみたいで、三針縫ったから」
「え…あ、は、はい…ごめんなさい」
(やっぱり…あの時と、同じだ…)
「今、先生呼んで来るから待ってて」
女性の看護師さんはそう言うと部屋を出て行く。それを見送ると、ずっと顔を覆っていた桜が恐る恐る手を退けた。