王子様とハナコさんと鼓星
「いえ…ご迷惑になるので」
「会長はそのような事は思いません。電話でとても心配しておりました」
「ありがとうございます。でも、今日は…ごめんなさない」
軽く会釈をする。それを風間さんはまたまた渋い顔で見下ろした後、小さく息を吐いた。
「凛太朗様が私に言っていました。華子様は人に遠慮し過ぎる所があると。だから、注意深く見ていて欲しいと。頼ってもいいかと思います。ご結婚なさったのであれば尚更です」
「…はい…ごめんなさい」
「いえ。私こそ、この様な場で引き止めてしまい申し訳ありません。明日、また連絡します。おやすみなさいませ」
「おやすみ、なさい」
そう言い、ドアを閉める。鍵が自動で施錠させるのを確認してから内側からも鍵をかけた。センサー式のライトが玄関を照らし、ふらふらと玄関の段差に座り込む。
「…はぁっ…う…うっ」
ため息を吐くと、何かがプツンと切れた。
両脚を抱えて顔を伏せる。怪我に触るから泣いてはいけないのにずっと我慢していた涙は1人になると意図も簡単に解け落ち、止められなかった。
それでも馬鹿だから、我慢しようと唇を噛み締め腕に爪を立てる。肉に食い込み痛い。
同じように、胸を急激に締め付ける痛みも襲ってくる。怖くて目を瞑った瞼の裏には聡くん。
私を見下ろすあの怖い目。私の全てを支配した声と肌の感触。ただの残像なのにとてもリアル。いないのに目の前にいるような気分。
どうしよう。もう、身体が動かない。早く寝具に飛び込めば良かった。こんな所で力尽きた自分が情けない。
何度も何度も、身体を動かそうと脳は言っているのに、私の身体は少しも動く事を知らない。