王子様とハナコさんと鼓星

凛太朗さんに言わないと。私の話は会社ではあまりしないでって。結婚の事を知られたあと、気まずくなるから。


バックヤードを歩いて従業員入り口に向かう。スマホがないから、今日はバスでマンションに帰らないと。

ご飯、何にしようかな。あと…昨日の事も謝って、話さないと。1日考えたけど、考えなんて纏まらない。


取り敢えず、ギリギリまで最善の方法を考えよう。そう思い、コートのポケットに手を入れようとした時だった。

背後から誰かの足音が聞こえ振り向くと同じタイミングで手首を掴まれる。

驚いて顔を上げるとそこには凛太朗さんがいた。

「…あっ」

私を見下ろす鋭い瞳。久しぶりの再会で嬉しいはずなのに、何故か胸が騒ついた。

「り…しゃ、社長?…あっ」

掴まれた手を引かれ大股で何処かに向かう。突然の荒々しい行動に動揺していれば、エレベーターに押し込まれた。

素早くドアを閉め、上に上がるボタンを押す。

すると凛太朗さんは私に詰め寄り、前腕を肩に置き顔を覗き込んで来た。


「あ、あの…」

「華子、俺に何か言うことがあるよね」

「…え?」

声が低い。いつもの優しい声じゃない。これは…怒りを含んだ声だ。
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