王子様とハナコさんと鼓星
一方的に外泊した事、怒ってるのかな。
「えっと、昨日はごめんなさい。凛太朗さんの帰りを待つつもりだったんですけど…友達が心配で」
「そうじゃない。と、言うか…そんな小さい事でこんな事してると思っているの?」
「……あ」
嫌な事が浮かんだ。それは聡くんとの事。まだ、私の中でどうすればいいとか答えなんて出ていない。
なんて言えば良いのか分からない。言葉を失くし、口をつぐめば凛太朗さんは片手で私の前髪をかきあげた。
「この怪我はどう言う事?説明して」
「…これは」
やっぱり、バレている。誰かから聞いたんだ。
一番最悪の展開。酷く動揺して良い言葉が思い浮かばない。なんて言おう。なんて言えば凛太朗さんは納得してくれるの。
でも、全然良い言葉なんて浮かんで来なかった。1日以上悩んで出て来なかった答えがこんなすぐに出るわけないんだ。
視線を下げ、その迫力のある眼差しから逃げようと目をぎゅうと閉じるとエレベーターが到着する。
ドアが開き、凛太朗さんは私の手首を再び掴み歩き出す。社長室に繋がる二重扉のロックを解除して中に入り自室のドアノブに手を掛け、部屋に押し込む。
振り返る余裕なんてなかった。背後でガチャリと鍵が掛かる音にゴクリと息を飲む。顔を強張らせると凛太朗さんはソファーに腰をおろして隣を叩いた。
座れ。と、言われていた。緊張で硬くなった身体を機械的に動かして隣に座る。
凛太朗さんの顔を見ることが出来ないでいれば、私の予想に反して伸びて来た手が私の手を握った。