王子様とハナコさんと鼓星
「もう、いいから。俺が急ぎ過ぎたんだよ。華子のペースもある。俺が華子に求め過ぎただけだから。だから、もう…いいんだよ」
「そんな優しい言葉ばかり言わないで下さい。そんな事いわれたら、私はまた…その言葉に甘えてしまう」
「甘えていいんだよ。感情的に咎めてごめんね。また、ゆっくりでいいから前に進んで行こう」
今日、初めて私に笑顔を向けてくれる。いつもの優しい微笑み。いつもと同じなのに、どこかぎこちない。
「…なら…家に一緒に帰りましょう」
手を伸ばす。だけど、その手を凛太朗さんは握らない。
「悪いけど、それは出来ない。いま、一緒に帰ったら…きっと…酷い事すると思うから」
「…え?」
「他のことも気にしてる…し」
「え、それ…は…何を…私、まだ…なにかしましたか?」
「してないよ。気にしない素振りをしていたけど、華子といると気にしちゃうから」
「それではわかりません。教えて下さい…」
「だから、それは…華子が無神経過ぎる。過去を知りたいと思っていたけど、身体の関係のことまで話されたら物凄く嫉妬心が湧いてくる。信用して貰えてないショックとあの男に対する怒りでどうかなりそうだよ」
私から離れて、頭を抱える。
唇を噛み締める彼。そんな姿は初めて見た。
そっか、凛太朗さんはその事も…そんな風に思っていたんだ。確かに、話し過ぎたとは思った。
私は…凛太朗さんを困らせて、苦しめていたんだね。
通り過ぎる周りの目が私達に向けられる中、ゴクリと息を呑み意気込む。
手を伸ばして腕に縋り付き、凛太朗さんを見上げた。